【まとめ】2015冬のセミナー


【冬のセミナー・まとめ】


『ブラック企業に負けない!学校で労働法•労働組合を学ぶ』出版記念学習会

 2月8日(日)に開催した全進研「冬のセミナー」には、北海道や福岡、愛知など遠方の方含め、56人の参加がありました。報告いただいた、角谷信一さんの豊かな「働くルール」の実践、笹山尚人さんの法律の専門家の立場からの鋭い指摘で、次につながる充実した学習の場になったと思います。当初準備した資料は50部、会場の決まりで、椅子を追加することもできず、ご迷惑をおかけしたことお詫びいたします。また、参加いただけなかった方には、別途掲載する当日報告資料をご参照下さい。以下:当日の概要です。(記録Aさん:文責全進研世話人会)


全国進路指導研究会「冬のセミナー2015」 出版記念学習会
学校で「労働法•労働組合を学ぶ!」ために…/アカデミー茗台
2015年2月8日記録
 
●司会進行:綿貫公平(全進研世話人)
 本日のセミナーは、昨年末出版された『ブラック企業に負けない!学校で労働法•労働組合を学ぶ』のテキストにした学習会。著者のお二人の報告を受けながら、学校内外の取り組みの現状や今後の課題を意見交換•交流していきたい。
 
●開会挨拶:山田三平さん(きょういくネット編集者)
 これまで、全進研大会での報告がもとになった新谷さんの『働くルールの学習』(2005)。角谷さんの『絶対トクする!学生バイト術』(2009)、労働安全衛生法に関する本も出版してきた。B区のコミュニティユニオンの書記長でもある。区内の看板公共施設で、雇い止めや、一年毎の契約の労働問題が起きている。労働組合が市民社会の中で、もっと力を持たない限り難しい。出版にあたり、労働組合に子どもたちが安心して近づけるように、という気持ちをこめた。
 
■報告①実践~「ブラック企業に負けない力」を育てる授業
角谷信一さん(千葉県立高校教諭)
 10年前から高校生に「働くルール」の授業を行ってきた。クイズ形式の『絶対トクする学生バイト術』(2009)を出版したが、実践の内容や方法はその後もどんどん変わっている。この本には、主に今年度の1学期に取り組んだ内容を記した。今日は、追加資料として2学期の実践を補足している。(別途:添付する)3学期は、格差社会について。何れも高校生にとって切実な話であり、真剣に学んでいた。

 生徒が一番興味を示したのは、「ブラック企業の見抜き方」について。「ブラック企業大賞」候補に、ノミネートされた企業の理由を読み、グループで話し合い選ぶことを通して考える。最も「いいね!」と思った労働基準法の条文を出し合う作業では、グループごとに挙げた条文が異なるところが興味深い。高校生のアルバイト調査:「10時間休憩無しで…」など、互いの不当な扱いを受けていることも授業で交流した。

 労働基準法の話をするきっかけになったのは、TVドラマ「労働基準監督官和倉真幸—働く人の味方です!」であり、昨秋の「ガイアの夜明け/もう泣き寝入りはしない!—立ち上がった働く若者たち」などTVで放送された番組や、映画『フツーの仕事がしたい』『メトロレディブルース』など、具体的な事実•映像に接し、準備したワークシートに書き込みながら学ぶ形式を取っている。

Q:実際に高校生がルールを活用した経験は。
 授業で学んだことを通して、バイトの時給を上げたり、有給休暇を取ることが出来たという声もあった。ゲストで報告したC大の学生からも、有休•休憩時間が取れたという話もあった。

 
■報告②実践~「働くルールを学ぶ」実践上の留意点
笹山尚人さん(弁護士、東京法律事務所/首都圏青年ユニオンを支える会共同代表)
 2000年弁護士登録。その年末発足した首都圏青年ユニオンの顧問弁護士を続けている。若い人たちとともに闘かってきた。①労働法を教える際の留意点、②労働組合と関わり、実践的にどのように身につけていくのかを述べたい。

 ①労働法の中身、あり方をどう伝えて行けば良いか。労働法は、強行法規であり、それを守らなければならない、絶対守らなければならない、こういうことをやってはいけない、といったルールだ。「うちの会社に労働法は…」という声も聞く。しかし、それが嫌なら人を雇うべきではない。個々の労働者は弱い。法律で守らないと、命と健康に関わる問題になる。使用者が守らなければならないルールとして労働法がある。

 高校生の相談事案もある、多いのはアルバイトを「辞めさせてもらえない」というケースだが、使用者に押しとどめる権利はない。また純粋な賃金未払いのケース「昨日は売り上げ悪かったから、(賃金)なし。」といった話も。法が守られていないことをどう担保するか。

 労働基準監督官が少なすぎ、ひとりの担当する企業が多くなる。逮捕し、送検できる権利があるが、留置所がないため、手間がかかる、という実情がある。しかし、法がすべての問題について網羅しているわけではない。退職金やボーナスなど。自分たちで作って行かなければならないものがある。法律が自分たちを守ってくれないこともあるということを知っておかなければならない。そこで、労働組合が必要になる。労働組合と使用者とで合意した労働協約は、職場の憲法になる。

 労働安全衛生法についてもふれてほしい。命と安全に直接関わる法規だが、なかなか守られていないところがある。業務命令にすべて従う必要はない、とくに命に関わるようなこと。どこに相談に行けば良いのか。という情報も大事。対抗するには事実が必要。具体的に伝えてあげてほしい。

 これまで事件に接してきた印象で言うと、青年層になればなるほど、従順な人が多い。しかし、発想が経営者のようになっており、うちの職場で「賃上げなんてとんでもない」など。加えて、非常に幼い印象、社会性の欠如が気になるところだ。フジテレビ2月18日放映「ほんまでっかTV」の収録のなかでも話をしたばかり。

 ある職場で不安が渦巻き、組合を作ろうと盛り上がった。しかし、気をつけないと急速にしぼみやすい。多くは議論の仕方が浅い。いろんな立場の人のよく話しを聞いて、自分の要求はなにか。ここでの獲得目標は何か、話し合う必要がある。議論して、ぶつかって、相手の意見を聞く、自分の意見を聞いてもらって、どれだけ冷静につめていけるか。そういうやりとりで社会性を身につけて行くのではないか。議論して、相手にぶつかって成果を確かめる経験。世の中を動かす成功体験が、幼さを克服する源であり、若者を民主主義の主人公にしていくのだろう。

Q:生徒から相談きたとき、どこまでタッチしたら良いか。
—実際の例で、その場で電話するやりとりを聞く。結局本人が解決する問題だから、立ち会いコメントのような形でサポートを。
 
Q:経営者側も学んでいない実情、どこで学ぶのか。
—経営者自身が学んできていない実情があると思う。4、50代の人の中で、労働者を人間として大事にしようという気持ちがある人は、自然と労働法を守ろうという形になっている。経営者対象のセミナーも担当する。確信犯のような人もいるが、特に若い経営者層に見られる。

《討論、交流(一部)》
Q:実際に若者にどう励ましたら良いのか。
【角谷】 実際に辞める生徒もいる。生徒たちにとって一番の解決法は、辞めること。
【笹山】 分断しているところに直面している場合、どういうふうに伝えたら良いか、その言い方や段取りを考えることが大事。
 
Q:角谷さんの実践に使用するDVDなど資料はどこから入手するのか。
 
Q:どういうふうに労働組合を、子どもたちに伝えて行けば良いのか。将来的に大きな問題なのではないか。
 
Q:先生が過労死で亡くなられた事例で、その学校長が真摯に受けとめ、その学年の生徒たちに話しをしたということがあった。過労死を考える会で、学生、高校生向けのテキストづくりに着手している。
 
Q:笹山さんより、話があった「社会生の欠如」を、少しでも培うためには、学校教育しかないのか。
 
【角谷】扱っているDVDは、本に付いている付録や、録画したものなど。最良な方法は、放送局に再放送をお願いすることだと思う。障害になっていることといえば、やれる立場にいないこと。自分は現代社会担当だからできる。以前日本史担当のときは、総合の授業で行った。ロングホームルームを使ってなど、教科の壁を取っ払ってやっていってほしい。自分はつねにピンチはチャンスと思ってやっている。
 
【笹山】 労働法の中身は学校以外に、地域、習いごとなど取り上げていける。ひとりの子どもを中心にたくさんの大人が関われるようにしてほしい。生の労働組合を知ってほしい。労働組合の生々しい事実を知ってほしい。
 
【司会】学校がアルバイトを禁止していれば、教員は教材として考えることができない、教員自身が組合員ではないことも多くなった。しかも「ホワイトカラーエグゼンプションの先取り」(東洋経済)と言われるほど、「やりがいの搾取」に慣れ、労働法と離れた長時間の働き方を強いられている。その慣れから生じる「語りにくさ」も、大きなネックではないか。
 
#:授業での認識から、現実をどう乗り越えて行けば良いか。私学は受験の道にのみこまれていく。組合に対する一般教員の視線が厳しい。生徒には、ブラック企業に巻き込まれないように勉強するんだよと伝えている。
 
#:どうして労働組合がでてきたのか、働く権利は歴史的事実があったんだよ、生徒たちが生きていく内容を教えて行かなければならない、ということが大事。
 
【角谷】 生徒の「意見表明権」を大事にしている。テストの採点についてなども。(笑)高校生では生徒会活動が鍵を握っていると思う。生徒総会は、形式的になりがちだが、クラスで要望をまとめるためにアンケートを取った際。1番はカーディガン(服装問題)、2番目はエアコンの要望が多かった。最終的には、執行部でもみ、校長にも伝えた。現在知事の回答待ち。生徒たちはそうした活動に感動を持って民主主義を学んで行く。「現代社会」の授業では、8割ほどビデオなど、映像を通して学習している。
 
【笹山】 使用者がどうあるべきかについて、注目している人が多い。
補足したいことは、労働組合は闘ってなんぼ。目に見える成果がないといけない。学校現場では一筋縄では行かないが、だからこそ、組合運動の可視化が必要だ。何を考えているのかなど。ソーシャルネットを使っていきながら。よし、意見表明してやろうかなという人が出てきたら、こっちのもの。
 
【司会】 (過労死を考える会から多くの方に参加いただいたが、過労死弁護団の川人博さんには、2004年の全進研大会(一橋大学)記念講演『過労死と学校』と題してお話し頂いた。ずっと学校教育と職場のつながりを追求してきた自負はある。今、社会科だけでなく、家庭科の授業で「働くことと生きることをつなぐ」実践が進められている。
 
●閉会挨拶:佐藤康尚(全進研世話人)
 本日は、テーマの重大性ゆえか、北海道・九州など遠くからの方を含め、50名を超す参加者となった。角谷先生の実践のしたたかさ・奥深さ、笹山先生の豊富な事例に基づくアドバイスもあり、質疑応答もかみ合い深まった。この本を大いに普及するとともに「労働法•労働組合を学ぶ」実践を大いに広げていこうとの決意を共有できたのではないか。本日はありがとうございました。

【参加者の感想】
A たいへん具体的で、かつ、見通しのあるお話で、自分の学校(高校)の実践的見通しが整理できました。
 
B 福祉の現場からきました。ひきこもりの大人の支援やゴミ屋敷の問題、貧困家庭の子どもたちへの学習支援などに取り組んでいます。豊島子どもWAKUWAKUネットワークのMLで綿貫先生の情報提供をみて参加しました。
  子どもの成功体験を積み上げること、学校での生徒会活動が労働組合活動である、など、とても勉強になりました。
  地域が子どもたちにとって「成功体験を積める場」にするために、力を尽くしたいと思います。本日はどうもありがとうございました。
 
C ありがとうございました。たくさんの実践があるのですね。過労死防止啓発のための高校生向けテキスト作りに協力していただけたらと思います。よろしくおねがいいたします。
 
D 現在、ハローワークで失業給付決定窓口で離職された方々の対応しています。離職理由の確認時に「ひどい職場だった」話をする方がけっこういます。退職する前に相談などした様子がない方が多く、退職する前に行動が出来なかったのかと、すごく感じていました。
  労働法を学ぶとか、相談先を教える、とかは本当に必要ではないかと、考えていて、今回参加させていただきました。キャリアカウンセラーとしても活動していて、高校の授業提案にすごく参考になりました。引き続きこのようなセミナーがあれば是非参加したいです。今、バイトテロとかも問題になっています。労働者側の権利だけでくる。本人の働くルールとかの話はしないのですか?
  私立高校の事例を知りたいです。
 
E お2人の興味深いお話が聞けて、参考になりました。私も以前は工業高校で勤務していたので、角谷先生のような授業をやっていましたが、現在、進学校に勤務しているので、なかなかむずかしいです。でも、角谷先生の話のなかで、いろいろな授業で労働法・労働組合のことが扱えることを学べた点は参考になりました。現在、私が入っている組合でも、今回出版されたような本をまとめています。全国で、こういう動きが広がっていくとよいなと思います。ありがとうございました!
 
F「もう退職してしまって、大学の講義も終わって、このようなテーマは関係ない」と思ってしまってはおしまい。かつてのように積極的にはなれないけれど、お二人の話を聞いて元気を貰いました。いま、古賀茂明著「国家の暴走」を読み始めたところで、安倍に対してカッカとしています。読みすすめて最後までいったら展望が見えてきそうです。
 
G 初めて参加しました。たいへん参考になり有意義な時間になりました。私自身の不勉強の部分を実感し、考え方の再確認を出来ました。大学で授業を担当していますが参考にできるように、生かせるように頑張りたいと思います。
 
H 社会性を身につける、幼さから成長するということが残念ながら大変に感じます。生徒同士で話し合って活動をつくっていくことがほとんどなく、教員同士での話し合いもなかなかできません。部活動との時間のとりあいの面もありますが、何もとりくまなくても勤務時間を越えてしまう実態があります。とりあえずはすきまをさがして少しでも、どんな小さなことでもやっていくしかないかと思います。本来は学校としてやることの組み直しをすべきなのでしょう。角谷さんの最後の話にもありましたが。
 
I 大変参考になりました。ありがとうございます。
 
J どのようにすれば労働法・労動組合に関する授業実践を広げていくことができるのか、といった議論を阻んでいる要因についての現状分析をきちんと行ったうえで、緻密にしていく必要があると感じた。一部の人が元気に取り組んでも意味がないと思う。
 
K 実際に高校への出前授業を行っているレイバーナウの友人にジェンダー教育や性差別の問題をどう教えるかということでテキスト作りに手を貸してほしいと言われ協力しています。
  労働組合で20年役員をしてきて現在専従を退職しましたが、現在の労使パワーバランスを変えていく担い手を作っていくことに興味があり活動しています。連携できること協力できることがあれば声をかけてください。
 
L 角谷先生の労働法教育の実践。笹山さんの留意点の報告をふまえ、フロアーの方と交流できたのはよかったと思います。角谷先生がまとめのところで学校での労働組合は生徒会だという指摘は大事な指摘だと思います。
 
 以上12通の感想をいただきました。