【まとめ】2014夏のセミナー

2014夏のセミナーまとめ           文責:世話人会共同代表(E)

 

8月3日に東洋大学スカイホールにて、夏のセミナーを開催しました。

中学・高校の教員、学生、研究者、報道関係、NPO関係など、さまざまの立場の方々の参加があり、盛会となりました。

 

テーマ:子どもたちは「有権者」でこそないが「主権者」だ

 

【1】今日の「進路指導」をめぐる課題(世話人会共同代表)

 

 全進研は1963年、全国教研集会(鹿児島)で「能力主義」を批判する立場で、全進研を立ち上げた。50年大会までは、夏に3日間の大会を実施。それ以降は、年に4回のセミナーを開催している。

 全進研では、菊地良輔氏(今年6・29逝去)が提起した全進研三原則(菊地良輔著「民主教育における進路の指導」明治図書  1968年)を基盤にしてきたが、今日、これに加えて、「政」を課題にすることが、急務であると考える。

大事な教育課題として、「3つのセイ」と言われる。すなわち、生・性・政。生や性をテーマとした教育実践に比較して、「政」に関する教育が脆弱だったのではないか。官制側も政治的教養の重要さを説いているが、一方において政治的中立性を要請していることで、学校現場において、「政」の教育が抑制されてきた現状がある。

 今回のセミナーにおいて、「18歳は大人」とする社会へというテーマを立てた。政治に期待をもてないとしながらも、若い世代が行動を起こしているという事実もある。そういった活動の報告を受けながら、「政」の教育実践の課題などを含め、子ども・青年を「主権者である」という実感をもった大人に育てていくためにできることを探ってみたい。

 

 

 

【2】基調講演

   子どもたちは「有権者」でこそないが「主権者」だ

                  林 大介(東洋大学 社会学部 助教)

 

1.自分自身が「子ども」に関わることになった経緯

 高校の文化祭で、子どもの権利条約を取り上げたことがきっかけで、それ以来、「子ども」をテーマとしてずっと活動をしてきた。小学校介助員、NPO、社会科教員、文科省(官民連携事業)などを経て、東洋大学社会福祉学科の助教として採用された。学生の社会貢献、内(大学)と社会をつなぐことを意識して活動している。

 

2.日本の子どもをとりまく環境

 日本の子どもの政治へ関心は、世界の各国と比較すると低いが、7割の子どもたちは関心をもっている。「子どもをとりまく環境」は厳しく、なかなか改善されない。希望や夢をもちにくい。大人として、どうすればいいか、考えたい。

 

3.問題意識

 「新しい公共」の担い手として主権者を育てる。「真の民主主義」を子ども時代から育む。子どもは「有権者」ではなくても「主権者」である。主権者には年齢制限がない。子ども時代からの市民性の醸成が、地域づくり、社会づくりにつながる。子どもが、思っていることを出せる、話を聞いてもらえる、自分のままでいられるという経験をすることが大変重要である。

 

4.模擬選挙の取り組み

 若年層の低投票率が低い。投票率をあげるのはどうすればいいか。政治教育が大事と言われるが、現状はできていない。しかし、「18歳選挙権」も言われる中で、若い人たちの「これからの社会への関わり」が大変重要になる。そこで、模擬選挙の取り組みを始めた。

 

目的:

1.国民の一人と実感し、民主主義を体感

2.賢い有権者を育てる

3.投票率UP

 

方法:

 実際の選挙に即して行う。家の人とも話し合うことで、自分の生活との関連を考える機会とする。マニフェストの比較。選管を設置する。

(動画)中・高校生がインタビューに応じていたが、関心をもっていることがうかがえる。

 教育委員会などには、70年代・80年代の安保の頃のように学校が荒れてしまうのではないかという危惧や、組合関係者などによって「偏向教育」がおこるのではないという危惧がある。先生方には「中立・公平に」とアドバイスするようにしている。(例)新聞は1社でなく、数社提示して、子どもに比較させるなど

効果:

 「権利の主体者であること」を実感することができる。同世代、友達同士で、政治の話をする機会になる(普段はなかなかできない)。政治や選挙が身近になる。考える機会になる。「3年前は、名前だけで選んでいたが、今年は政策をみて決めた」「ちゃんと考えないと投票できない」という感想がある。有権者世代にもよい影響がある(親と会話するなど)

その他:

 模擬選挙に他にも、町づくりについての話し合いに参加。9割の子どもたちが、復興にむけたまちづくりに参加したいと考えている。

 意見が実現しなくても、意見を聞いてもらえることが重要。選挙は、「民主主義」の根幹単に選挙制度を学ぶだけでなく、実際の社会の動きについて学ぶチャンス。

 子どもにとって、大人とちゃんと話す機会が大切。「わからないこと」は「わからない」でいい。一緒に考えることが大切。選挙・政治のことだけでなく、対話をする。子どもの意見を聞く、大人の意見も言う。

 

(質疑)

(高校教員)質問:模擬選挙ネットワークとしては、「器の提供」に眼目があるのか、選挙権はないが、10代には10代の「課題や争点」があるということに踏み込むことはどう考えているのか?

(講演者)活動としては、実際の選挙の時に模擬選挙をやっている。「選挙をする経験」を重視している。選挙がないときの課題もある。「10代の課題」についての取り組みは確立しているとは言えないが、10代への世論調査は行っている。

 

(大学教員)選挙を通じて政治の話をすることは重要。「政治的批判意識」を育てる「政治教育」という観点ではどうなのか。

(高校教員)文科省に推進の動きはないのか。

(講演者)「政治的批判意識」は普段の授業でどのくらいやれるかが重要ではないか。模擬選挙だけに「政治的批判意識」を求めることはできないと考える。

文科省は「やってもいいよ」くらい。しかし、「模擬選挙」はトップダウンでやることには危惧がある。「政」を考えるひとつのしくみとして「模擬選挙」があると捉えている。

 

 

 

【3】報告1 社会の主人公となる主体形成を!

                   小池 由美子(埼玉:県立高校教諭)

基調講演を受けて、高校での実践、ということで報告したい。

報告の主旨は以下の通り。

高校生・青年の成長発達のために、わたしたちができることを考えましょう。

高校生・青年の実態を把握しましょう。

開かれた参加と共同の学校づくりをめざして

—自前の教育課程づくり(学校教育の全体計画)のために

 

1.高校生をめぐる状況ー進学校に勤務、実感として

 新自由主義的な競争教育に投げ込まれている・・・絶えずランキング。

大学よりも就職が不安と思っている。

 

2.授業づくり-この5年

1.教科の授業

初めはグループ学習への抵抗があったが、

生徒同士の人間関係ができてくると、間違えることをおそれなくなる。自分の考えを言えるようになる。人の意見が聞けるようになる。

調べ学習、グループ学習を通して、学習が発展。仲間を励ます空気ができた。

 

2.総合学習

ワールドカフェ方式を取り入れ、学年の教師集団での取り組みに広げた。

 

3.道徳教育を社会の主人公となる教育に変換する

 生徒の人間関係ができることで学力も伸びると実感している。

 

 

 

【4】報告2  札幌学生ユニオン 活動報告

                    小川 遼(共同代表  共同代表)

 2013年1月30日に結成大会後、さまざま活動を行っている。

ワールドカフェ、ワークルール学習会、アルバイト状況聴取会、団体交渉申し入れなど

 ブラックバイト「低賃金であるにもかかわらず、正規労働者並みの義務やノルマ、重労働を課せられるアルバイト」非正規労働の基幹化が進む中、ブラックバイトの実態も深刻化している。

 

※代表の女性、報告者が、なぜ運動する主体になり得たのかということに関わる質問があった。

 

報告3  若者がつどい、声をあげることから、10代の政治参加を目指す

          青木 大和(大学生「僕らの一歩が日本を変える」代表)

 

「18歳は大人か」ということに疑問。若い人に関心をもってもらう活動をすることが重要ではないかと考えた。若者による社会おこしの実現であると考える。

 

1.活動の内容

若者の政治意識をシゲキする。中、高、大学生で活動している。

 

(副代表)自己紹介から  「活動に関わる基盤」

ボートでいいところ(インターハイ)までいった(自信)

 

(代表)「アメリカに行きたい」という希望を親が後押し  アメリカで刺激を受けた。

(豊かな体験)

 

2.活動

政治に関するワークショップさまざま・・・Tシャツづくり、高校生が国会議員と議論(高校生が申し込みして実施)

 

iPadによる選挙(模擬選挙)を通して感じたこと・・・

10代、政治に関心薄いと実感している。

「政治に興味がなさそうな子」に声をかけ、関心をもってもらえた。

賛成?反省? 考えるクセをつけることが大事だと考える。「歯がゆい思い」をすることが大事だと考える。

 

3.問題と感じていること

「学校でやらせてもらえないか」というと断れるので、街頭でやるしかない。

協力が得にくい。

模擬選挙の結果・・・比較的、名前で選んでいる。政策がわかっていない。

政治のブランドって何だ?・・・政治に興味がない子が多い  

 

 

質疑

(取材)北海道ユニオンは北大だけか、他大学に広げる計画はあるのか

    僕いち 活動をひろげる工夫は?

(北海道ユニオン)ほとんど北大 他大学にも呼びかけてはいる

(僕いち)全国行脚 「あなたが総理大臣になったら?」

 

(高校教員)僕いち メンバーはどんな形で集まってきたのか? 国会議員と    話すのは準備をするのか?

 

(僕いち)ウェーブサイトから多い・・学校もバラバラ、女子が少し多い

  FB、twitterのときもかなり集まっていた。イベントに参加して継続。

 「政治のことを話すこと」が格好いいとなっていくようにした。

  国会議員と議論はかなり準備する。国会に反映してくれる議員もいる。

 

(高校教員)僕いち 資金はどうしているか?  

(僕いち)寄付を募っている。高校生には、交通費・宿泊費は半額援助。企業  100社くらいに協力要請のメールを出す。

 

(小池さん補足)感想  素晴しい大学生と出会えてよかった。

主体形成ができる教育過程づくりに関わっていきたい。

 

(外から見える転機  内なる転機)

(僕いち) 「楽しそうに見える」と言われる。 新しい挑戦ができて楽しい。   5人乗りのボート-5人揃わないと、みんなが力をださないと動かない。社会も同じ。

中3から大学生でいる。「持ち出し」でやっているから、とにかく楽しくする工夫をしている。年齢縦割り。若い子が自己肯定感低い、高まる仕掛けをしている。

 

(高校教員)大学を卒業した後はどうするのか?

 児美川先生(法政大学)はlife work    rice work    like workと言っているが。

 

 (僕いち)NPOとして回していきたい。この活動で食べていけるようにしたい。

 

(高校教員:非常勤)3人の若者の話を聞いて、日本も捨てたもんじゃないと思った。僕いち・・高校生100人と国会議員の議論の例を聞かせてほしい。北海道ユニオン・・持続していくための条件づくりは?

 

(僕いち)学校にiPadの導入。学校で模擬授業の実施の要求。「リアルタイムなテーマ」は、時期が合えば取り入れる。

 

(ユニオン)寄付に頼っている。経済的に、上部団体をつくらないので厳しいが、利用されないために必要。労働組合は法律的に作りやすくできている。

 

 

グループ討論

(まとめはそれぞれ)

 

 

まとめの発言

(林)自分の活動の原点は「子どもの権利条約」。「大人になってから」ではなく、子どものときから考えておくということが必要。そのひとつの手段として、リアルの選挙のときに、模擬選挙をやるという活動を10年。若い人たちが関わっていくことが大事だが、「学校の中でできない」というのが疑問。政治の話題が学校や家庭、地域でできることが大事なのではないのか。どうやったらいいかを一緒に考えていきたい。

 

(青木)若いとか年配とか関係なく、カリスマ・ヒーローもなく、「こうすればこうなる」という絶対的な道筋もなく、ひとりひとりが周りを巻き込んでいけばいいと思う。いろいろな世代の人が、自分のできることで社会を盛り上げていけばいいと思う。インターネットは有効なツールだが、大事なことは会って話さないとわからない。

 

(小川)社会運動として活動している。労働運動だけとして展開するには、学生にはあまりメリットがないと思う。学校の先生にお願いしたいのは、ワークルールの学習。「自分が無力だからでなく、使用っているほうが間違っている」と考えられることが大事。

 

(小池)北海道ユニオン、僕いちの活動が学校でできるようにしたい。「主体として育てる」という中には、困ったときに助けてと言えるちからもつけることも含まれる。自治のちからは授業の中でもつけられる。「若者がなかなか参加しない」というのは、大人の責任であり、また、若者の活動の仕方がある。大人が受け止められるかどうかが課題であると考える。

 

 

以上、文責は、全進研世話人会にあります。