全進研 秋のセミナー2018 まとめ 

 

日時:2018.11.17(土)

場所:法政大学 冨士見ゲート棟

 

テーマ:「通信制高校」ってどんなところ?

「高校生の20人に1人が通信制(サポート校)高校生」

「中卒後の進路先として、増え続けています」でも、「通信制高校」ってどんなところ? 今日的な課題としてきちんと学ぶ機会にしたいと考えている。

 

 

(記録・まとめ・文責)遠藤

【1】開会

開会(世話人:中村)全進研の歴史は50年。子ども・青年の進路をただ単に学校や就職ということだけで考えるのでなく、広く考えていこうと

今回のテーマは通信制。中学の現場、通信制高校が急増していて、多岐におよび、わからないことがたくさんある。

 

会場校挨拶(法政大学:児美川)法政の中で一番新しい校舎を使っていただくことになった。テーマに関して、ソサエティ5.0などが打ち出される中、公教育が溶けていくという危機感をもっている。本日のテーマである通信制がそれにハマるなと考えているので、今日の研究会に期待している。

 

報告者紹介をかねて挨拶(世話人:綿貫)通信制高校に進学している子どもが増えている。90年台の終わりくらいから、中退問題に関心をもっていた。その頃、通信制高校に肯定的なイメージをもっていなかった。今、角川のN高校がさらに中学をつくろうとしているなど、事態が変化してきていると思う。報告者の土岐さんはチャレンジスクールの1期生、在籍しながら大検を取った。博士論文は今日のテーマで書かれた。今日的な課題として、お話を伺ってみたい。

 

【2】報告1

なぜ通信制高校は増えたのか

—私立校の設置認可行政に着目してー

報告:土岐 玲奈さん(埼玉大学・非常勤講師:教育相談)

日本通信教育学会幹事、文科省:広域通信制高等学校の質の確保・向上に関する調査研究協力者会議メンバー

 

※土岐さんの報告は、今後、論文投稿に使用することが予定されていますので、資料に記載された情報の転載や引用を差し控え、影響のない範囲でのまとめとさせていただきます。

 

今、この課題について3名で研究している。自分自身は、チャレンジスクールで学んだが、高校は4年で卒業できず、在籍しながら大検を受けた。就職せず大学に残って研究を続けている。

通信制高校(高等学校通信制課程)は、もともとは勤労青少年の教育機会を拡充するために創設された制度であるが、近年では生徒層が若年化し、教育上の多様なニーズをかかえる生徒を受け入れている。その数は90年台からぐっと伸びている。通信制の拡充は生徒数よりも学校数において顕著であり、生徒のニーズだけでは説明が不十分であると考えている。日本の中での私立高校が果たしてきた役割があり、生徒が減っている中で、この私立高校を中心に通信制が増加、私立の他にも高等専修学校などの参入もある。

2000年代、通信制をめぐる法改正がいくつか行われた。全日制や設備投資のハードルが低いため株式会社の参入が進んだという指摘もあるが、通信制の増加は1990年代からの動向であり、法改正の影響については検証の余地があると考えている。また、「教育をよく知らないところ」が設置しているのではないかという声があるが、75%は既設の学校法人、25%が新設ということで、その辺りの検証も必要だろう。

 

質問として、次のようなことが出された。

・サポート校が通信制を作った数は

・21自治体の設置基準はどうなっているのか

・本部のある市町村は

・定員抑制の課題 全日制(私立高校)との競合はどうなのか 定時制との関係で、「行けなかった子」の受け皿なのか

※回答はシンポジウムの中で

 

 

【3】報告3

「高校生として学ぶ権利」

〜中学卒業後の子どもの学習権保障〜

報告:國枝 幸徳さん(某広域通信制高校協力校 某広域通信制技能連携校勤務)

 

多くの子が「制服を着て学校に行きたい」という気持ちをもっている。毎日は無理でも週2なら通えるという子もいる。NHK学園は「昔ながらのいわゆる通信制」であるが、生徒は多様化していて、いろんな子が来ているという実態がある。

「いつでも、どこでも、だれでも」と言っているが、「誰がレポートを書いているかわからない」というような実態もあり、困っていることも多い。

今、思っていることは、本当の意味で「いつでも、どこでも、だれでも」にならないかということである。

 

【4】サポート校に通っている若者の発言(明日風さん)

通信制高校に進学した理由

私立の高校に受かっていたが、「性同一性障害があること」を事前に相談したが受け入れができないと言われた。

 

通信制高校の様子

学校生活は、学校によっていろいろなものがある。塾みたいに勉強が多いところもある、イベントが多いところもある。自分はできるだけ全日制に近いところがよかったので、イベントの多いところを選んだ。

年齢層もいろいろ。不登校とかコミュニケーションが苦手という人が多いが、だいぶ学校に馴染んで学校を楽しんでいるように、わたしからは見える。週に通う日数は人によって違う。毎日来ても授業に出ないこともある。

 

自習室があるか  ある

 

明日風さんは何日通っているか。

わたしは週5に通っている。ほとんど自習室で自習している。レポートを書くというのが前提である。

 

メリット、デメリットは?

自由度が高い、バイトしてよいなど特徴があるが、これはメリットでありデメリットであると考えている。

 

明日風さん自身の進路は?

大学への進学を希望している。専門学校、就職の人もいる。

 

【5】シンポジウム

司会(綿貫)高校中退を考える(資料)。通信制高校をどう見ていたか。昔は東電学園など、技能提携している科技高、向陽学園など高等学校・技能連携校が主だったが、法人格のない学校が出現してきて、ダイレクトメールなどものすごい宣伝を展開している。90年台の終わり、高卒就職がガタンと減ったとき、中退した子たちに話を聞くと「Y学園に行っている」という。副校長先生に話を聞いたら首都圏で6000人いるとのこと。立志舎、東京会計法律専門学校など少子化の中で専門学校が厳しくなる中で、校庭なしでOKなどの設置基準のゆるいところが影響しているのか。今日、新たな段階にきていると感じている。共存共栄的な話もあったが、どうなのだろうか。

 

土岐:まず、質問に答える。

・サポートから高校になった数はわからない。サポート校の数であるが、昨年度、文科省の調査では1405箇所、重複してのサポート校もある。ただし、既存の通信制高校とは生徒の奪い合いがおきていたということが予想される。

・設置基準はそれぞれ。北海道は基準が細かいが、

・本部が多い自治体は? 学校基本調査によると北海道7、茨城9、千葉・埼玉11、東京、沖縄4。埼玉は狭域、北海道や沖縄は広域。生徒数がまばらなので、数だけではわからない。

・チャレンジスクール、私自身も通ったが、比較的大人しい不登校の生徒。

「非行系の生徒は受け入れない」とはっきり謳っている。通う日数はまちまち。みんなに開かれている場所とは限らない。県によっては入りづらいという実態がある。

 

綿貫:國枝さんから、土岐さんと明日風さんに質問はありませんか?

 

國枝:ボクは「通信制高校で勤務」と言っているが、非常勤でたくさんの日数働いているわけではない。「レポートは家に持って帰らせない」通信制高校がある。通信制高校本来のありかたである「いつでも、どこでも、だれでも」となってない通信制高校が多いのではないか。高校で進路変更を余儀なくされる生徒が多くいる今、進路変更の相談とかも含めてSSWのようなシステムが、高校段階で必要ではないか。

明日風さんの話を聞いての感想

「しばられるのがイヤ」という子がいる。妊娠した子への対応も必要になってきている。

 

綿貫:都立でも保育室あったりする。

 

土岐:いろんな生徒に対応しているという良さを感じつつ、「行きたかったけど、その学校が受け入れてくれなかった」ということを助長しないかなと考えたりする。

 

綿貫:「多様な学びの場」が求められているのに、学校はちっとも変わらない。  フリースクールを認めないという声もある。でもそういうところで生き生きと学んでいる実態も否定できない。

 

フロアーからの発言

Aさん(中学校):いろんな生徒がいる。かかえている問題も違う。通級に通っている生徒もいて、なんとかやっているが、都立高校に行くようになると思うが、やって行けるのか?「ぼくなんか行くところがない」と投げていた子が「サポート校がある」と話すと落ち着くこともある。経済的な部分の課題がある。お金との兼ね合いが課題。

 

Bさん(中学校):経済的な支えがないと、進学が厳しい実態がある。サポート校の話をしても、経済的な基盤がないと難しい。成長期の子たちを「こんな状況の中」に置きたくないと思う。「起立性調節障害」が多いのが気になっている。

 

Cさん(フリースペース、居場所に関係している):

通信制に行けるようになった子もいる。元小学校の教員だったが、不登校の子がとても増えている。国の方針である「多様な学びの場所」は必要ではないかと考えているが反対の声もある。現状がわからないので、今日は参加した。問題点を出していただけるとありがたい。

 

Dさん(現職のときは定時制高校の教員):当時から「変な学校」という印象。今は、万を超えて在籍があるだろう。現在、若者支援に関わっているが、そこで救われている生徒がいることも事実。

それでもかなり大きな問題があると思っている

・どこが管理しているのか 責任をもって管理している部署がない。

・都の役人と話すが、まったく実態をつかんでいない。それなのに、広域の宣伝をする。

一方で既存の学校のあり方を問うていると思う。定時制では、金八で出る前に、性同一性障害の生徒にもきちんと対応していた。

 

土岐:東京都は、通信制は就学支援金の対象外。制約ある。複雑である。

都道府県によって違いがある。設置認可で、「どこにあるか」というのは関係ない、政治的な要素が働いていると思われる。特区で作ったのに、その地域の生徒がいないとか。やっと文科省が「現地の人と協力」通達を出したが、どこの現地かわからない。

 

綿貫:東京都は、授業料は実質無償だが、他にもお金がかかる。小池都知事は、「3月から通信制就学支援金を出す」と言ってはいるが。

「青少年治安対策本部」がサポート校の支援をしていたりする。

 

中3に質問されたら、どう答えるか?

明日風さん:メリット・デメリット、自由がある 中学があまりうまくいかなかったが、個人的には、通信制に行ってよかったと思っている。中学のときも学校になじめないというところがあったので、全日制に行っても同じようなことがあったのではないか。全日制に行っていたら、楽しいことがもっとあったかもと思うが、自分はこれでよかったと思っている。

 

Eさん(八王子で子ども・教育にかかわっている):

定時制がつぶされるというときに運動をした。通信制のことがわからなくて参加したが、勉強になった。「定時制が夜だから、4年かかる」ということでイヤなのかなと思うが、4年間でちゃんと育っていく実態がある。中学生も、中学の先生も、「早く決めたい」と思われるのかもしれないが、理解してほしい。

 

Fさん:2004年に条件が緩和され、参入が増加。株式会社が参入。補助金・助成金は出されているのか?

 

土岐:株立のデメリットは補助金・助成金がもらえない。紐づけを好まない実態がある。

 

Gさん(広域通信制の学習センターに勤務):

民間の教育研究団体で学んで、自由な授業をしたいと思っている。制度論、社会の状況は一方でわかるが、合同説明会で、起立性調節障害があって、公立を希望しているが「起きられないから、続かないかも」とか、「やんちゃな子」とか、学ぶ以前の諸々の問題がある、例えば学習障害的な子、現実はいろんな子がいて、なかなか「学ぶ」というところまでいかない。「教科の中味を学ぶ」というのがとても難しいと感じている。管理監督、本校とやりとりしているが、指導を受けて、大きな制度変更になった。

 

Hさん(私立高校の教員):保護者負担が大きい。助成金はあるが、他にも自己負担がある。

 

Iさん(4月からサポート校で働くことになっている大学生)

通信制のことを知りたいと考えて参加した。

 

【6】まとめとして

今回のセミナーは、近年、急激に数が増えてきたのに、実態がよく見えなかった通信制高校について知り、学ぶためのよいきっかけとなったのではないか。今後も継続して考えていかなくてはならない課題のひとつであると考える。国枝さんの報告の中にあった、本当の意味で「いつでも、どこでも、だれでも」にならないかという思いやシンポジウムでのGさんの発言にみられる「教科の中味を学ぶ以前の課題」辺りが、議論の出発点になりそうだ。通信制高校に限らず、すべての教育機関で共通に検討していかなくてはならない課題を含んでいると考える。

 

【7】参加された方々の感想

Aさん:社会と個人の価値観が多様化する中で、さまざまな学校・教育機関があることは悪いことではないと思いますが、その中での問題について、また、学ばせていただければ有り難いです。ありがとうございました。

Bさん:中学校教員です。サポート校・通信制高校から案内が来ますが、内容がわからない面が出てきています。一方で、早くに試験をして合格が出されるので、生徒・保護者は安心することもあるようですが、内容は把握できたのだろうかと思うことがあります。

Cさん:学年の生徒が、近隣のサポート校に見学に行ったら、「今年は倍率が出ている」ので、他の教室を紹介されたり、系列の学校を紹介されたりと聞いたばかりです。通信制高校の教員の設置基準が、2004年にこんなことになっていたことに、本当に驚きました。通信制の問題点、授業料援助のことなど、できるだけ生徒・保護者に、ごまかしなく話し合っていきたいです。今日のテーマもとても良かったです。同僚を誘っているのですがなかなか・・・広げたいと思います。

Dさん:通信制高校が増えた背景、要因は理解できました。不登校やその他の理由で、全日制高校に行けなかったり、高校を中退したりした子どもを受け入れている通信制高校ですが、そのような子どもが生き生きと高校生活を送っているのを見ています。しかしその一方で、教員の指導体制などが不十分なのではないか、感じているところもあり、教育の質の向上、保証を考えていく必要があるのではないかと思っています。(何校か通信制高校に進路ガイダンスで訪問して感じているところですが)

Eさん:サポート校・通信制高校の役割はとても大きくなっていると感じています。多様な学びが必要な中で、公立の枠の中に入れない子どもたちに、本当の意味で学び、育つことができる場は必要です。教育の在り方をきちんと考えていかないといけないです。公立中学校もすべての子どもたちにとって、生きづらくなっているように感じています。

Fさん:政府は骨太方針で、「行政が市場を作り出す」施策  公教育は財政支出をスリム化させながら、競争教育と規範意識の二つの価値にシフトした学校へとあり方を大きく変質させている。その競争の強化のために、学力テスト、塾の補習授業、高校テスト、共通入試まで教育産業市場が公教育に浸透してきている。厳しくなった学校生活空間から、多くのドロップアウトが生み出され、その子どもたちに「緩い学びの場」がこれもまた新たな市場として登場。これが「高校全入」の今日的姿だとしたら・・・

Gさん:通信制高校のことを全く知らない状況の中で、通信制高校の増加した背景を知ることができました。自分は公立の中学校の教員を目指しています。千葉県成田市にある中学校に週1回ボランティアとしてお世話になっていますが、私立高校の紹介はあっても、通信制高校の情報は、学校の廊下にないような気がします。今の教員の方の仕事は多すぎて、通信制高校について知る機会をもっと多くしなければ子どもたちの将来を狭めるかもしれないと思っています。

Hさん:私は来年から通信制高校で教員をやる予定ですが、なるべく多くの知識を自分に取り入れたく考え、今回参加せていただきました。私が就職活動をしている中で、サポートだったりの違い、生徒目線で考えた魅力や宣伝力の違いなどあり、本当にその生徒に合う通信制だったり、定時制全日制というのも客観的に見れてサポートしていく必要もあると感じた。また通信制の監督強化だったりという所は、教育を担うという部分で必要だと感じることができた。

Iさん:通信制高校について、歴史的にみてこれまでにどうなってきているか、土岐さんのお話でよくわかりました。明日風さんの実際に高校生活を送っている具体的なお話を聞くことができて良かったです。新しいことへの目が開けた学習会でした。ありがとうございました。

Jさん:「教育」「学習」を教科学習ということだけで捉えていては難しい、ということは痛感。ひとりひとりのペース・方法での学び、学び方が保障されるためには、多様な場が必要。サポート校の先生たちとも一緒に考えていけたら良いですね。

Kさん:定時制勤務の立場で、「ゆっくり手厚く学べる」定時制のメリットをもっとアッピールしていきたいと思います。通信制の多様なニーズに応えていることを改めて知ることができましたが、学習権を保障していることになるのか疑問をもちました。

Lさん:大変学ばせていただきました。ありがとうございました。土岐さんの冷静な報告がとても良かったです。この研究がもっと深まっていくことを期待しています。論文になったら是非読ませていただきたいと思います。

Mさん:通信制で勤務していて、「学ぶ場・学びの質」の向上を思案していますが、なかなか「それ以前」の現実態があります。そんなところも今後みなさまと交流できたらと思っています。

    *別件5月13日「教育産業」のほうこくがありましたが、以前、教育産業(私学コンサル会社)に勤務していたことを『教育』(2008年)『人間と教育』(2008年)にて執筆しました。

Nさん:子どもの貧困メーリスを見て参加させていただきました。不登校中3の息子が高校へ行くと言ってくれたので、今、探し始めている所で、勉強させていただきました。パンフレットは、大きな学校のようなイメージなのに、見学に行くと、雑居ビルの中、またコースや金額まちまちで、意外と全日制私立と変わらない。(週3・4でも)少人数はいいのだけれど、少なすぎるのにイベントや文化祭はある。(どう盛り上げるのか?)疑問がたくさん出てきました。が、今日のお話で、スクーリングの場所がなぜ遠方か。(地域振興)とか定員抑制ないから作りやすいなど具体的な裏のことがわかり良かったです。シンポジウムも国枝さんのお話は現実的で、共有したいなと感じました。

Oさん:登校拒否している中学1年生の娘を持つ父親として、娘の進路の選択肢の一つに通信制高校もあるかなと思い、どういう所か知りたいと思って参加させていただきました。通信制が増加していることを初めて知りました。それだけにどのような学校が娘にふさわしいか判断が難しいと感じました。娘の学びをどう保障していくか、引き続きこうした場に出向き、私自身がよく学んでいきたいと思います。本日はありがとうございました。

Pさん:多様な立場の方のご意見をお聴きすることができました。大変勉強になりました。

 

Qさん:通信・サポート校の内容については、まだまだ踏み込んでいかなければと思いますが、本日の土岐さんのお話は通信制のベースの部分を語って頂け、最初の理解ができました。このテーマで継続して学ぶ場を作って頂ければと思っています。